ワンボックスタイプの救急車が普及する以前に、メトロポリタン型救急車というリムジンのシャーシに救急車のボディを架装したタイプの救急車が主流だった時代がありました。
そんな時代のトヨタFS45Vメトロポリタン型救急車の紹介です。
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未だにクラウンの救急車と間違われ続けている
リムジンのシャーシに救急車のボディを架装したメトロポリタン型救急車は、アメリカが主流だったのだと思います。
ゴーストバスターズのECTO-1みたいなタイプです。
欧州でもシトロエンDSやベンツW110の救急車がありました。
日本ではメトロポリタン型救急車以前は、ボンネット型のバスかトラックの寸法を詰めたシャシーに救急車のボディを架装した物や、シボレーのピックアップのシャシーにサバーバン的なボディを架装した物だったみたいです。
画像出典:
https://www.city.kyoto.lg.jp/shobo/cmsfiles/contents/0000159/159141/23.jpg
そもそも日本では救急業務自体の明確な法制化が非常に立ち遅れていて、1963年(昭和38年)に制定されるまで、何処が(警察?消防?)どこまで(火災や水害、地震は範囲内で事故、急病の扱いは不透明)責任を持つのかハッキリしていなかったようです。
なので、それまでの日本の救急車は上記のように仕様がまちまちだったみたいです。
救急業務が消防の範疇と明確化された時点で、まちまちだった救急車の仕様を標準化する為に、昭和38年度の自治省消防庁の委託研究で試作された「標準救急車」としてアメリカに倣ってメトロポリタン型救急車を導入しはじめたようです。
とは言え日本にはアメ車のようなリムジンのシャシーは存在しなかったので、既存のパーツを組み合わせて全長5.5mのメトロポリタン型救急車を作らなければなりませんでした。
ちなみに当時のアメリカのGMでは、キャデラック、ビュイック、オールズモビル、ポンティアックに、リムジン、救急車、霊柩車用のロングホイールベースのシャシーが用意されていて、架装メーカーでそれぞれの仕様に架装されていました。
トヨタではメトロポリタン型救急車として(トラック系のシャシー?に)ランドクルーザーの6気筒3900ccのガソリンエンジンを搭載し、外装にはトヨペットクラウン(マスターライン)のパーツを流用しました。
画像出典:
ここで、外装にトヨペットクラウン(マスターライン)のパーツを流用してしまった事で、一般の人々に誤解を生じさせる事になりました。
クルマに詳しくない大部分の人達にクラウン(マスターライン)の救急車のように勘違いさせてしまったのでした。
当時はクルマの情報は今と比較すると圧倒的に少なく、クラウンの救急車ではないというアピールは一切なかったので、普通の人々は顔だけ見てクラウン(マスターライン)と決めつけてしまいました。
更に消防ではなく主に病院等の配置用に、クラウン(マスターライン)ベースの救急車も存在したので尚更混乱を招く事態に陥っています。
一応形式名的にはFS45V(35V・56V)なので、F型エンジンのSプラットフォームの4(3・5)代目の、ボディ仕様5(6)V なのでクラウンの一派で間違いないとは言え、元のクラウン(マスターライン)からは余りにもかけ離れています。
落ち着いて観察すればあからさまにボディのサイズが違うのですが、フロントグリルの印象が強く、ほぼ全員がクラウン(マスターライン)の救急車というイメージを持ってしまいました。
コチラがトヨタFS45Vメトロポリタン型救急車の画像です。
画像出典:自動車ガイドブック1965-1966 第12巻
下がトヨペットクラウンがベースのMS46VBトヨペット救急車の画像です。
画像出典:自動車ガイドブック第13回東京モーターショー記念出版1966
ホイールベースから、車体サイズの違いが判りますか?
違いが判らない人は2台のドアに着目して下さい。
FS45Vメトロポリタン型救急車のドアの後部にRS46VB救急車の後席ドアの輪郭を描くと、後輪までにドア1枚分以上にかなり距離がある事に気付きませんか?
FS45Vメトロポリタン型救急車はホイールベース3200ミリ、MS46VBトヨペット救急車はベースのトヨペットクラウンと同じ2690ミリです。
約50センチもホイールベースに差が有ります。
動画は、浦安鉄筋家族のプロパンクラウンのタクシーの際にも紹介しましたが、トヨタFS45Vメトロポリタン型救急車が発掘された際の記録です。
こちらはその後2017年11月のお台場旧車天国に展示された際の動画です。
復元・整備を担当した方は、発掘時の動画でも作業されている方なのですが、その方にお台場旧車天国の会場で話を伺った処、キレイに仕上げてしまうより、発掘時の雰囲気を残して展示したほうがインパクトが強いのでは?と提案して、意図的にボロボロの状態を残して展示したとの事でした。
パッと見はボロく見えますがメカ面は稼働状態に戻され、細部はキチンと仕上げられていました。
再び前の画像を見て貰いたいのですが、一見後部が大きいだけで、フロントのボンネット周りはクラウンと共通に見えるFS45Vですが、ドアのシルエットを規準にするとフェンダーやボンネットのサイズがRS40トヨペットクラウンより大きい事に気付きませんでしょうか?
画像出典:自動車ガイドブック1965-1966 第12巻
トヨペットクラウンはサイドに回り込んだバンパーの端部からホイールアーチが始まるのに対して、FS45Vはバンパーの端部からホイールアーチまでに距離があり、フロントグリルからホイールアーチまでの距離が長いのが判るでしょうか?
画像出典:自動車ガイドブック第11回東京モーターショー記念出版
4気筒のみだったRS40系に対して、ランクルの6気筒を搭載する為にボンネット部も延長、拡大されているのです。
ドアの下部のサイドシルの厚みも違うのが判るでしょうか?
FS45Vは高さ方向もトヨペットクラウンより大きいのです。
タイヤサイズもトヨペットクラウンの13インチに対して、FS45Vは15インチでタイヤの外径が全然違います。
お台場旧車天国の会場で、FS45Vの復元・整備を担当した方に話を伺った際に、長年疑問だったフロントフェンダーの謎を、実車を見本に教えて貰いました。
素人にはトヨペットクラウンのフロントフェンダーをそのまま流用していると思い込まれているフロントフェンダーは、実際にはフェンダーの下1/3位から切断して、上下方向にストレッチしたピースを製作して切り張り溶接したワンオフものだとの事です。
なので、もし仮にぶつけて破損しても、クラウンのフロントフェンダーをポン付けする事は出来ません。
同様にボンネットも延長してあるそうで、内側のX字の補強プレス板の中央に溶接の継ぎ目がある事を、ボンネットを開けて示して貰いました。
この辺は、実際に車両を分解してレストアした人でないと判りませんねw
又、お台場旧車天国に展示されたFS45Vは1968年製で、クラウンは前年の1967年にS50系にモデルチェンジしています。
出典画像のFS45Vも1965年モデルで、クラウンの1965年式は後期型なので、外装は1世代遅れています。
なので一般に販売されたクラウンの変遷とはシンクロしていない模様です。
ちなみにこのトヨタFS45Vメトロポリタン型救急車、現存が確認されているのは、千葉のいすみ御宿町にあるファームリゾート鶏卵牧場「御宿農場」にある「レトロぶーぶ館」に展示してある個体と、このお台場旧車天国に展示された車両の2台のみの模様です。
トヨタのメトロポリタン型救急車は、この次のS50系クラウンベースのFS56Vまで続き、以降はハイエースがベースのトヨタアンビュランスRH18V・19Vなど(※こちらもハイエース救急車ではなくトヨタアンビュランス)のワンボックスタイプに移行していきました。
この記事を読まれた方は、間違ってもトヨタFS45Vメトロポリタン型救急車を見て「あ、クラウンの救急車だ!」とは言わないで下さいねww
トヨタFS45Vメトロポリタン型救急車が注目されるきっかけは、このTLVのミニカーでしょうか?
トミカリミテッドヴィンテージ トヨタ 救急車 FS45V型 (玉川消防署) LV-20a
こちらは昔販売されていた、トミカのトヨタFS56Vメトロポリタン型救急車です。
ダイヤペットでも1/40スケールで出ていたのですが、そちらは残念ながらクラウン救急車という名前で販売されていました。子供に売れていた商品なのでクラウン救急車のほうが売りやすかったのでしょう。
しかしコレで尚更クラウンの救急車という誤認識を子供たちに刷り込んでしまいました。
トミカ 黒箱 40 トヨタ 救急車 日本製 1/70
お台場旧車天国に展示されたトヨタFS45Vメトロポリタン型救急車を特集した号です。こちらはキンドル版。リンク先の試し読み(PCページ)で一部閲覧出来ます。
キンドル会員なら今は無料の模様です。コレを機にキンドルに入会するのもアリかも知れません。
高速有鉛デラックス 2018年 6月号 [雑誌]
こちらは書籍版です。次モデルのトヨタFS56Vメトロポリタン型救急車を特集した号です。
高速有鉛デラックス 2010年 10月号 [雑誌]
ハイエースがベースの救急車ですが、この時代はまだ「トヨタアンビュランス」でハイエースという名前は付かないので、迂闊に「ハイエースの救急車」と言ってしまうと・・・w
書籍版です。
高速有鉛デラックス 2013年 08月号 [雑誌]